• 三田村

連載4 J・M・ゴットマンの観察研究(1)--離婚は予測できる


■連載「(4) J・M・ゴットマンの観察研究(1)--離婚は予測できる」 三田村仰 p.120-128. 『こころの科学』2022年1月号 通巻 221号



第4回の見出し

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  1. J .M ・ゴットマンの縦断研究プロジェクト実証研究

  2. データプールNo. 1、No.2の中身

  3. 行動指標(夫婦の会話)データ

  4. 離婚への連鎖モデル

  5. 2種類のカップルとその3年後の運命

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著者からの解説:

夫婦/カップルについての研究として外すことができないのが,J.M. ゴットマン博士(John Mordecai Gottman; 1942-)らがおこなった,一連の観察研究です。


1. 日本ではあまり知られていないすごい人:“J.M.ゴットマン博士”

おそらく,英語圏でカップルについて関心がある人で「J.M. ゴットマン」の名を知らない人はいないことでしょう。彼はそれくらいに有名な人物です。彼の名は,海外では,カップルについての研究者やカップルを支援する実践家はもちろん,一般にも極めてよく知られています。


彼がそこまで著名である理由は,一つには,彼が,一般向け書籍や講演などを通して精力的に情報発信していることがあげられます。そして,彼の語り口は,極めてユーモラスであり,分かりやすく,広くカップルたちに受け入れられてきたということも理由でしょう。


そこまでなら,彼は単に"英語圏での著名人"の域をでません。しかし,彼の発する言葉が大きな影響力を持つ理由は,彼が自身で膨大な研究を系統立てておこなってきた正真正銘の研究者であることにあるでしょう(表1はゴットマンらが集めたデータの一覧です)。彼は半世紀近くにも亘り,数百組のカップルたちの相互作用(会話でのやりとり)を観察し,“幸福でうまく継続していくカップル”と”不幸であったり,破局に至るカップル”との特徴について系統的に明らかにしてきました。


つまり,彼が発する言葉は単に"分かりやすい"のみならず,その言葉の背景には"確かな実証的根拠"があるのです。



表1 ゴットマンらの観察研究のデータ一覧

*「フォローアップ」とは「その後,どうなったか?」という,最初にカップルに研究に参加してもらってからの後のことを意味します。長いものだと20年を超える長期のフォローアップをおこなっていることがわかります(これは本当に大変な研究です)。

*このリストにはありませんが,ゴットマンらは異性愛夫婦に限らず,ゲイ・カップルやレジビアン・カップルを対象にも研究をおこなっています。



2. 夫婦/カップルの実際に目を向ける

ゴットマンが行ってきた研究は「観察研究」と呼ばれるものです。その名の通り,“よ〜く観察してみる”わけです。それは,わたしたちが小学校の理科の時間に,先生から「では,このアサガオをよく観察してみましょう。どんな特徴があるでしょうか?」と言われたのと同じことです。


ゴットマンは当時の,カップルへの支援者や,理論家が,評論家たちが,確かな根拠もなく“それっぽいこと”を言ってみせることに対し,強い憤りを覚えていたようです。とりわけ,夫婦/カップルの話になると,人は「愛が足りない」とか,「お互いの話をしっかり聞きましょう」とか,「お互いがもっと自律しましょう」とか,「思ったことをはっきり伝えましょう」とか,それっぽいことをアドバイスしがちです。これらのなかには実際に有効だったり,事実も含まれるかもしれませんが,それらはほとんどの場合,個人的な経験から語られるわけです。「私はこうだった」とか,「私はたくさんのカップルに会ってきたから知っている」とか,「〇〇理論がこう言っている」,といった具合です。


つまり,ゴットマンは私たちが小学校の理科で学ぶ姿勢,つまり,先入観ではなく”

ありのままの現実を観察する”という科学的姿勢を通して,カップルの関係を理解しようとしたのです。

ちなみに,ゴットマンは特定の心理療法やカウンセリングの特定の学派や理論に対してコミットしていたわけではないので,何の権威に忖度(つまり,気遣い)する必要もなかったわけで,”なんなら既存の権威ある理論をぶち壊すことになったって構わない!”,くらいの意気込みを持っていたようです。とても共感が持てる意気込みです。



3. 夫婦の“やりとり”を観察する

ゴットマンの研究の話に戻りましょう。


ゴットマンの研究の大きな目的,彼のライフワークは「夫婦の婚姻関係の維持/離婚を予測するモデルを作ること」です。


分かりやすく言うと,夫婦が"離婚する兆候""婚姻関係を維持するための秘密"を明らかにしようということです。そのために観察研究をおこなうわけです。


何を観察するかというと,夫婦が会話している場面です。夫婦に研究所に来てもらって,席についてもらってから15分会話をしてもらうのです。細かい話は置いておくとして,夫婦には「二人の間で意見が合わないこと」について会話をしてもらいます。



4. 離婚する夫婦とそうでない夫婦の特徴

「二人の間で意見が合わないこと」について夫婦が会話するとどんなことが起こるでしょうか?


素朴にそれは,ちょっとした口論になりそうです。なんせ意見が合わないことを話し合わせているわけなので,そうなっても不思議はありません。”実際には,何が起こるのか?”を観察することが大切です(アサガオのおしべやめしべの数を数えるように,日毎の成長を記録にとるように)。


たとえば,ある初期の研究(表1の「No.2」)では,参加したカップル全73組は,その4年後のフォローアップの時点では,36組(49.3%)が「離婚を検討中」であり,18組(24.7%)が「別居」に至っており,9組(12.5%)は実際に「離婚」していました。


なんと言いますか,夫婦についての縦断研究(時系列での研究)というものは,私たちがあまり知りたいと思えないような,暗い未来を直視するものでもあります...


しかし,ゴットマンの仕事は,夫婦たちの不幸を見ることではありません。

最初に,研究室にやって来た時点ではそれなりにうまくいっているように見える夫婦であっても,何年か先のフォローアップでは「離婚」と「婚姻関係」という二つの異なる道へと分かれていきます。彼は,それを選り分けるような特徴をなんとか見出そうとしたわけです。そして,彼は,最初に観察した「15分の夫婦の会話」の様子の中から,その特徴を見つけ出しました。


[次回につづく]




こころの科学(2022年1月号 通巻 221号)

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/8677.html



原稿内で引用した文献

  1. Gottman. J. “The science of love”. TEDxVeniceBeach. https://www.ted.com/talks/john_gottman_the_science_of_love/transcript

  2. Gottman, J. (1979). Marital interaction: Experimental investigations. New York: Academic Press.

  3. Gottman, J. M. (1999). The marriage clinic : a scientifically-based marital therapy: New York : W.W. Norton

  4. Gottman, J. M. (2015). Principia amoris: The new science of love. New York, NY, US: Routledge/Taylor & Francis Group.

  5. Gottman, J,, & Gottman, J., S. (2000) Gottman Method Couples Therapy Training, Level 1. Gottman Institute.

  6. Gottman, J. M., & Levenson, R. W. (1992). Marital processes predictive of later dissolution: behavior, physiology, and health. Journal of personality and social psychology, 63(2), 221-233.

  7. Gottman, J. M., & Levenson, R. W. (1999). What predicts change in marital interaction over time? A study of alternative models. Fam Process, 38(2), 143-158.

  8. Gottman, J. M., & Levenson, R. W. (2000). The timing of divorce: Predicting when a couple will divorce over a 14-year period. Journal of Marriage and the Family, 62, 737-745.

  9. Krokoff, L. J., Gottman, J. M., & Hass, S. D. (1989). Validation of a global rapid couples interaction scoring system. Behavioral Assessment, 11(1), 65-79.

  10. Simon, R. (2007). The Top 10: The Most Influential Therapists of the Past Quarter-Century. Psychotherapy Networker, 31(2).

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