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  • 執筆者の写真三田村

母になること:思春期葛藤の再来

妊娠,出産,そして育児は女性にとって,とてつもなく大きな人生のイベントと言えるでしょう。

子を授かり,育てることは一般的に,"望ましいこと"や"希望"として表現されることも多いですが,実際にはこのとき女性は精神的にも身体的にも非常に大きな挑戦を強いられることになります。


ちなみに,当然ながら,男性には育児はできても,妊娠,出産の大変さを体験することはできません。一方の女性の方は,妊娠によってこれまでに経験したことのないような身体の変化を体験することになります。そしてホルモンのバランスの変化によって身体の内側から心理的にもさまざまな変化を経験することになります。



今回の記事では,TED talkという世界中の様々な発見やアイデアを紹介する動画のなかから,女性の精神科医サック先生の回のお話を紹介します(参考資料)。



こうした妊娠,出産,育児にまつわる悩みを抱えた女性を支援してきたアレキサンドラ・サック医師は,妊娠,出産,育児を通して女性が体験する現象は「思春期」のそれと似ていると言います。


思春期には,人は身体の中のホルモンの働きによって自分自身の身体の変化,感情の変化を体験します。誰でも経験することです。


女性は妊娠を機にこれと似た形で,自分自身の身体な心の変化を体験するということです。


思春期に変化するのは身体や感情の変化だけではありません。青年は,自分自身のアイデンティティ(「私」という一貫した感覚)を確立しようと,子どもとしての自分/大人になろうとする自分,子ども社会/大人社会,友人関係,両親との関係,といった様々な葛藤を経験します。


サック医師によれば,妊娠・出産・育児を通して女性が経験することは身体や感情だけでなく,こうしたこれまで自分自身が抱えていた「わたしらしさ」と「母としての私」との葛藤が存在するのです。 実際の葛藤の例として,これまでの友人との付き合い方であったり,仕事のことであったり,そしてトイレに入る(もし一人で入れるなら...)といった社会的な役割や一人の人間としての普通の生活にまで影響が及ぶことをユーモラスに紹介しています。


サック医師は,母になる過程での変化を表現する言葉として,「思春期(アドレスセンス adolescence)」になぞらえた「マトレスセンス matrescence」(辞書にはありません)という造語を紹介しています。これは病気ではありませんが,身体的にも心理的にも非常に大きな葛藤を抱える時期であり,女性はこの時期をうまく乗り越えることによって,子どもと女性自身とを人間らしくしていくと述べています。


また,この時期を上手に乗り越える方法として,パートナーを含む友人や周囲をこうした経験について話し合っていくことを勧めています。




急速に変わりゆく私たちの社会の中で,女性の社会進出はもちろん,日本の男性はこれまで以上に家事や育児に参加する方向へと進んでいます(進むべきでしょう)。これにより,夫にあたるパートナーにおいても,女性のような直接的な変化を経験せずとも,多かれ少なかれさまざまな葛藤を体験することになると予想されます。さらにそれにあわせて,女性が経験する葛藤もまた今まで以上に複雑になっているかもしれません。パートナーを含む家族や社会が一層お互いを支え合える仕組みを作っていく必要がありそうです。



参考資料

Alexandra Sacks’ TED talk:"A new way to think about the transition to motherhood" *日本語字幕で見ることができます。



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